2016年にイーサリアム(Ethereum)上で発生した「The DAOハッキング事件」は、ブロックチェーン史に残る大事件として知られています。
この出来事は、スマートコントラクトの脆弱性、そして「ブロックチェーンは改ざんできるのか」という根源的な議論を引き起こしました。
The DAOとは
「The DAO(Decentralized Autonomous Organization)」は、
分散型自律組織の概念を実験的に実装した投資型プロジェクトです。
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2016年4月にイーサリアム上で立ち上げ
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出資者はETHを送ることでDAOトークンを受け取り
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投票によってプロジェクトの資金配分を決定
当時としては画期的な仕組みで、
世界中から約1.5億ドル(約170億円)相当のETHが集まりました。
ハッキングの発生
しかし、2016年6月、The DAOのスマートコントラクトの脆弱性が突かれ、
約360万ETH(当時約50億円相当)が不正に抜き取られます。
攻撃手法は「再入可能性攻撃(reentrancy attack)」と呼ばれ、
送金処理中に同じ関数を何度も呼び出して、
本来より多くの資金を引き出すというものでした。
ハードフォークによる分岐
ハッキング後、イーサリアムコミュニティでは大論争が勃発。
立場 | 主張 | 結果 |
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ハードフォーク支持派 | 被害資金を取り戻すためにチェーンを巻き戻すべき | Ethereum(ETH)として継続 |
反対派 | 「ブロックチェーンは改ざんできない」という原則を守るべき | Ethereum Classic(ETC)として分岐 |
2016年7月20日、ハードフォークが実施され、
イーサリアムは「ETH」と「ETC」の2つのチェーンに分裂しました。
反対派が維持したETCでは?
あなたの疑問のとおり、
Ethereum Classic(ETC)側では盗まれた360万ETHがそのまま犯人のアドレスに残った状態で維持されました。
フォークを拒否したETCチェーンは、
**「過去を改ざんしない」という哲学(Code is law)**を貫いたため、
The DAOの記録もそのまま保存されています。
その後、犯人(または関連アドレス)は一部資金を移動・換金した形跡がありますが、
多くはそのままETCチェーン上に残り、
現在も履歴として確認可能です。
DAO事件 年表
年月 | 出来事 |
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2016年4月 | The DAOプロジェクト開始 |
2016年5月 | 約1.5億ドル分のETHを調達 |
2016年6月17日 | ハッキング発生(約360万ETH流出) |
2016年7月20日 | イーサリアムがハードフォーク(ETH/ETCに分裂) |
以後 | DAOは活動停止、セキュリティ監査が業界標準化 |
DAO事件の教訓
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スマートコントラクトの監査の重要性
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ブロックチェーンは「コードが法」なのかという哲学的問題
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イーサリアム分裂(ETHとETC)という歴史的分岐
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以降のDeFi・DAOプロジェクト設計におけるセキュリティ意識の高まり
まとめ
DAO事件は単なるハッキングではなく、
ブロックチェーンの哲学と現実のバランスを問う象徴的な出来事でした。
「改ざん不可能」という理想と、「ユーザー保護」という実務の間で、
イーサリアムは分岐しながらも、今の巨大エコシステムへと発展しています。
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